上遠野浩平/恥知らずのパープルヘイズ ージョジョの奇妙な冒険ー 感想

上遠野浩平 恥知らずのパープルヘイズ ージョジョの奇妙な冒険ー を読了しました。




原作5部のアフターストーリー

"VS JOJO"シリーズの第一弾として登場したのは、上遠野浩平氏が描くジョジョ5部のその後に焦点をあてた小説です。表題の通り、『パープルヘイズ』を操り本編にも登場したパンナコッタ・フーゴが主人公となっております。彼は作中、主人公チームと心情の相違により途中で離脱してしまいその後一切触れられなかったキャラクターでした。本作品は、時系列的には原作の5部の終了後、そのフーゴに、かつての主人公メンバーの一員であったミスタが会うところから物語は始まります。


社会的にも精神的にも宙ぶらりんな立場になってしまい、生きる意味を失っていたフーゴに、新たなメンバーと新たな任務が与えられます。その任務とは、原作でも設定として出てきていた『組織内の麻薬メンバーを撃滅すること』。戦いやメンバーとのやり取りを通じ、フーゴの自分自身を見いだす旅がこの話のテーマであると言えます。


装填は、ハードカバーで銀色と紫をモチーフとされており、ふちの部分や栞の紐も紫で統一感があります。挿絵はすべて荒木先生の書き下ろしとなっていてファンにとっては嬉しいポイントです。また原作5部にあったようなスタンド能力紹介ページも入っており、ニヤリとさせられます。

スタンドバトルを読むという快感

この作品を読む上での注目ポイントは、やはり超能力のスタンドバトルをどう文章で表現しているかということでしたが、アマゾンの書評の一つにあるように、文章を読んでいるのにまるで漫画を読んでいるかのような迫力に驚きました。テンポも良ければ理解もしやすい。するする頭の中に入っていきます。文章でここまでスタンドバトルの雰囲気を再現できるというのは素晴らしい。


新しいキャラクターのスタンド能力は精神に寄与するものが多く、尖った能力が多かった5部にとっては若干違和感を覚えたものの、どの能力も比較的わかりやすいため特に詰まる事なく読む事ができます。個人的にはフーゴと共に戦うメンバーの1人、ムーロロの能力がかわいらしく5部スタンドっぽくて良いですね。キャラクターとしてもなかなか味があります。ちなみに敵では真っすぐな性格のヴィットリオが好みです。

ファンの期待を裏切らない良作

新キャラクターはもとより、5部に出てきたキャラクターの全てがしっかりと原作の個性を保ったまま登場して来ているというのも流石です。「ああ、こいつならこう言うだろうな」という期待をまったく裏切る事が無いので、読んでいて違和感がありません。またスピンオフとして観た場合も、フーゴが主人公チームを離れる際に直面した葛藤などが深く掘り下げられており、無理の無い理由付けになっていて関心しました。メインストーリーとかなり強く絡む部分をここまで破綻無くアレンジするというのは見事です。


ファンならニヤリとするオマージュも多く、5部以外からのオマージュも数多く挿入されているので、ジョジョを好きな人ほど楽しめる造りになっています。逆にいえば、やはりジョジョを知っている人が読まないと魅力は半減するでしょう。先述の『スタンドバトルを読む』という体験も、ジョジョの画や演出を知っているからこそ頭の中にイメージが出来ますので。そういう意味で誰にでも勧められる作品ではありませんが、ファンに向けては安心してお勧めできる良作です。
(一カ所だけ少々不満だった部分があります。細かい部分ですが、フーゴを裏切り者と書くのには若干違和感を覚えました。彼は別に原作で主人公チームを裏切ったわけではなく、ただ離脱しただけですので。相対的に観れば裏切りと言えなくもありませんが…)


ストーリーは全体を通してちょっと湿っぽ過ぎる感はあるものの、綺麗に纏まっていてさわやかな読了感があります。タイトルにあるポートレートは読了後に改めて見返すとグっとくること請け合いです。ジョジョファンには迷う事無くオススメできます。