岸部露伴 ルーヴルへ行く 感想

荒木飛呂彦先生のフルカラー漫画『岸部露伴 ルーヴルへ行く』、ずいぶん前に買って読んだのですが感想を書き忘れていたので今更ながら書きます。



荒木ファン必携のフルカラー漫画

本作品は、ルーヴル美術館BD(バンドデシネ)プロジェクトという、世界中の漫画家がルーヴルをテーマにした作品を描くというプロジェクトのひとつとして作られたものです。以前荒木先生がオルセー美術館展で手伝いをされ、そこでの付き合いから今回このルーヴル美術館BD(バンドデシネ)プロジェクトの作者として白羽の矢が立ったとのこと。ファンとしては感涙の待遇です…よくぞ荒木先生を選んでくれたと感謝せずにはいられません。


もちろん本編の原画はルーヴル美術館に展示され、昨年の4月にはフランス版のフルカラー単行本が刊行。それにあわせ、ウルトラジャンプでも3編に分けてモノクロ掲載がされました。そして今年(2011年)の5月にとうとう日本語版のフルカラーB5単行本が刊行されたという運びです。


『荒木先生の漫画がフルカラーで読める』という、もうこれだけでファンにとっては3,000円を出す価値があります。

サスペンス色の強い短編

ストーリーは、4部『ダイヤモンドは砕けない』でのメインキャラの1人であった岸部露伴を主人公としており、彼の初恋の相手とその謎の失踪、そして彼女にまつわる『最も黒い絵』に関する謎を追いルーヴル博物館に赴くという、サスペンスめいた構成となっています。露伴は他にも短編で何度か主人公になっていますが、その好奇心の強さと食えない性格からキャラクターとしても動かしやすいのでしょう。


全体を通して、日本らしい、懐かしい幽霊的(あるいは呪い)な湿度を感じるストーリーになっています。また構成も過去→美術館→地下での体験→エピローグというわかりやすくすっきりとしたものです。ただしエピローグの露伴の述懐の部分はかえって謎解きをわかりにくくしている印象があります。最初読んだ際にはよくわかりませんでした。


露伴もスタンド(超能力)を持っていますが、今回はスタンドでのバトルはほぼありません。ただし敵のようなものは登場します。『敵』の攻撃(?)は『スティール・ボール・ラン』の『シビル・ウォー』に酷似していますね。あのエピソードはやや不完全燃焼気味だった印象もあるので、再利用したのでしょうか。


スティール・ボール・ラン』は壮大な大陸を横断するという舞台上オープンな空気感でしたが、この『ルーヴル』は逆にかなりミクロで密室的な空気を感じます。特に地下の場面で謎と遭遇する場面は色合いもあいまって暗く緊張感のある空気で、ホラーチックな昔の4部を彷彿させます。

色彩について

本書はオールカラーですが、前編(過去)、中編(ルーヴル)、後編(ルーヴル地下)でそれぞれセピア、ピンク、青と色彩の統一をはかった造りになっています。その独特かつ美麗な色遣いは、ファンでなくとも一度は見て頂きたいものです。前編のセピア調でノスタルジックな色合いは古くからの日本らしさが出ており、中編で舞台がルーヴル(フランス)に変わったとたんガラッと色調が変化するのはダイナミックで視覚的にも楽しい効果です。また表紙のトリコロールカラーは、『フランスに敬意を表して』とのこと。


荒木先生は水色とかピンクといった色が結構好きなようです。たしか6部『ストーン・オーシャン』8巻の表紙で海をピンクに塗っていて、それはどうやらどなたか有名な画家の意匠のオマージュであったと記憶しているのですが(単行本のあとがきに書いてあったような…忘れてしまいましたが)、あのあたりから荒木先生の色彩センスがぐっと深みを増してきたような印象があります。ピンクってかなり使い方が難しい色だと思うのですが、それをさわやかに魅せるセンスは流石としかいいようがありません。


ちょっと気になって昔の単行本表紙を見ていたのですが、昔のジョジョのロゴでもピンク色を使っているものが結構ありますね。


最近の荒木先生は漫画以外の分野でも最近は精力的に活動されていて、そういった作品ではカラーなものが多いため、目にする機会が多くなって嬉しいです。